グレイスケールの現物出資によるアービトラージとは?

重要ポイント

  • グレイスケールの拠出の80%が現物出資であるとする、メッサーリの推定は誤解を招く。
  • GBTCやETHEの取引でアービトラージによるぼろ儲けはできない。
  • GBTCやETHEは、ホドラーにとっての収益強化の道具になり得る。
  • 現物出資は金銭出資と同様に、ビットコインとイーサリアムの供給を減らす。

暗号資産分析会社メッサーリ(Messari)は最新の調査で、グレイスケールトラストによる暗号資産のスポット取引が水増しされていると表明した。これは、グレイスケールが2020年以来購入したのは20,697 BTCと192,684 ETHのみで、GBTCとETHEの拠出全体の20%を構成し、一方現物出資が80%を占めているとしたものである。しかしながらこの推測は、純粋に2019年第3四半期時点の割合にのみ基づくものだ。

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出典: Messari

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出典: Messari

現物出資とは何か?2020年にはいくらあるか?

その名が示す通り、金銭出資とはグレイスケールの関連会社ジェネシス・グローバル・トレーディング(Genesis Global Trading)におけるプロセスの一つであり、投資家から現金の支払を受け取り、BTC/ETHを購入し、これらの暗号資産をグレイスケールへ渡してGBTCやETHEの証券を発行する。それとは対照的に、現物出資はBTCやETHの現物を拠出し、GBTCやETHEの証券と直接交換する必要がある。

グレイスケールが開示したデータによれば、現物出資の拠出総額に占める割合は、2018年第3四半期で58%、2019年第2四半期で71%、2019年第3四半期で79%だった。一方、2018年第4四半期と2019年第1四半期の現物出資のデータは開示されていないが、我々が12ヶ月連続データから導き出した推測では、2018年第4四半期と2019年第1四半期を合わせて43%である。

出典: Grayscale、Bybit Insight 

グレイスケールは、2019年第4四半期以降の現物出資の割合を公表していない。最新のデータである2019年第3四半期の79%は明らかに異常であり、2020年における現物出資の現実的な概要をつかむために用いるには不適切だ。

2020年における、金銭と現物の正確な割合はどうなっているのか?それは、グレイスケールのみぞ知る。

現物出資者に莫大なアービトラージ(サヤ取り)のチャンス?

ETHEの800%プレミアム価格での取引」でもご説明したように、答えはイエスとは言えず、少なくともぼろ儲けできるものではない。

メッサーリのレポートでは、リスク中立的な投資家はBTCやETHを借りて、GBTCやETHEの証券に現物出資するかもしれないと述べている。売却の際の取引のプレミアムが総費用よりも高ければ、その取引は利益を生むとみなされる。総費用には、借入費用(BTC年間6%、ETH年間10%)や管理費用(GBTC年間2%、ETHE年間2.5%)が含まれる。

しかしながら、拠出方法に関わらず、出資した証券は6ヶ月から1年までの保有期間の終了後にのみ売却できる。

ETHEのプレミアムはすでに、6月初めの950%から6月24日の350%まで劇的に下落した。メッサーリのレポートでは、さらに自由に取引できる証券が発行される2020年末までに、ETHEのプレミアムが急落すると予言している。

さらに、新興の競争相手の要素も考慮する必要がある。ニューヨークを拠点とする投資会社ウィルシャー・フェニックス(Wilshire Phoenix)は、新たな上場のビットコインファンドの立ち上げを申請した。新たな競争の到来が予想されることから、現在のプレミアムはより減少し、グレイスケールの証券は6ヶ月か1年で割り引いて取引される可能性さえある。もっと悪いことに、買戻プログラムなしには割引が必ずしも収束するとは限らない。

理想的なアービトラージ戦略は、グレイスケールの証券を借りてそれらを今空売りし、プレミアムを固定することだ。

証券仲買人によれば、GBTCの証券の借り入れ費用は15%に近い。借入費用とファンディングコストを足し合わせると、10~20%のGBTCのプレミアムは、取引を正当化するための十分なマージンは存在しない。

GBTCの最新の空売り残高(空売りされたまま買い戻されていない売り建ての総額)は、5月末の29,452,958証券で、証券全体のわずか7.6%、自由に取引可能な証券全体の約11.8%を構成している。

出典: Fintel

ETHEの高いプレミアムは、2020年には100%を超え、さらに多くの利益を生むアービトラージのチャンスを示唆しているように見える。

しかしながら、「ETHEの800%プレミアム価格での取引」でもご説明した通り、ETHEの証券のうち自由に取引できるのは、わずか3%にすぎない。言い換えれば、空売り可能な証券を見つけることはほぼ不可能である。

ETHEの空売り残高は5月末の時点で44,814証券のみであり、証券全体の0.3%、自由に取引可能な証券の9%を占める。

出典: Fintel 

アービトラージはGBTCとETHEの成長の主な推進力か?

もしそうであれば、取引のプレミアムが高い時は、GBTCとETHEの拠出の持続的な成長が期待できる。

興味深いことに、GBTCの拠出は主に、2018年と2019年の各四半期の最初の月の第2週目と第4週目に行われている。考えられる説明の一つは、GBTCの投資プログラムが、2019年第2四半期の4月と同年第3四半期の7月8日~22日にのみ公開されていたことだ。他の四半期については、妥当と思われる説明を見つけることができなかった。

出典: Grayscale

我々は、GBTCのプレミアムチャートの拠出の集中に、現物出資の割合の四半期の平均を重ね合わせてみたが、取引のプレミアムと出資ニーズや現物の割合との間に、明確な相関性はみられなかった。

出典: Grayscale、Bybit Insight

ETHEの拠出にも、はっきりとしたパターンは見られない。ETHEのプレミアムが950%から6月24日に350%まで下落する間に、ETHEは1日の上昇幅87,993 ETHという新記録を打ち立てた。

出典: Grayscale, Bybit Insight

注:グレイスケールのデータ開示は、2020年第1四半期までである。2020年第2四半期のデータは、Bybitがグレイスケールのその他のさまざまな開示情報をベースに推測した。我々の推測では、現時点までの第2四半期におけるGBTCの流入量は7億ドルを超え、前の四半期の流入量の3.89億ドルを上回っている。同期間のETHの流入量は約1.3億ドルで、前の四半期の1.1億ドルよりもやや増えている。

投資家はなぜ現物出資で拠出するのか?

グレイスケールの商品でアービトラージを行うのは簡単ではないとは言え、現物出資は最低保有期間にこだわらないホドラー(HODLer、長期保有者)のような、一部の投資家にとって意味がある。保有期間終了後にGBTCやETHEがプレミアム価格で取引されてさえいれば、これらの投資家はGBTCやETHEの証券をより高い価格で売却し、BTCやETHをより低い価格で買い戻す。もちろん、プレミアムは信託報酬や管理費用をカバーできなくてはならない。

これは、長期にわたりビットコインやイーサリアムを保有するための、シンプルな収益強化戦略である。

それにもかかわらず、GBTCやETHEへの金銭や現物の全ての投資は、グレイスケールの金庫室にある同額のBTCやETHを本質的に凍結し、流通する莫大な供給量を減らす。GBTCとETHEの成長は、依然として市場を揺さぶる重要な要素である。